仏教では元来、お墓をつくるという習慣がなかったせいか、お墓をいつ建てるかなどについての規定はありません。いつ建ててもよいのです。ただし仏教では「回向」、「追善供養」というものがあります。回向とは、生き残っているものが行った善行を死者に振り向けて功徳を積んでもらい、成仏の助けにしてもらうということであり、追善供養というのうは、死者の冥福を祈って催し物をすることです。したがって、遺族の全員が故人のことを心から供養しようと思ったときが建墓にふさわしい時期といえるでしょう。一般的に四十九日、百ヶ日、一周忌、三回忌、新盆、彼岸などの供養のときとなります。
近年では、生前に自分のお墓を建てておく人も増えつつあります。これを「寿陵」といいます。寿陵は、中国の古い書物にもある言葉で、秦の始皇帝をはじめ歴代の皇帝もつくってきました。寿を「ことぶき」「ことほぐ」と読むように、おめでたいこととされています。墓碑名に赤いエナメルをいれたお墓、本人が亡くなると白い墨を入れる習わしです。
特に、都市ではこの寿陵が目立ってきました。これは墓地不足への対応策として、早めにお墓を確保しておきたいという気持ちの表れでしょう。寿陵を「生前墓」ともいいます。
寿陵には2つのケースがあります。生前に自分のお墓を建てる場合と、夫婦のどちらかが亡くなったときに夫婦のお墓を建てる場合です。前者を「個人墓」といい、後者を「夫婦墓」または「比翼塚」などといいます。「比翼」の名は中国の伝説の鳥に由来します。この鳥は翼が一つしかないので、夫婦二羽が並んではじめて飛ぶことができるといわれています。このことから夫婦二人で力を合わせて仲むつまじいことを「比翼連理」などといいますが、そこからきています。
また昔から寿陵を建てるときには、逆修といって生前に自分や配偶者のお葬式を出し、戒名をもらって位牌をつくりました。逆修の逆は「あらかじめ」という意味で、逆修の法要を営んで寿陵を建てることは大変功徳のある縁起の良いこととされています。現在でももちろん、お墓に頼めば逆修の法要を営んでくれます。
よく生前にお墓を建てたり、自分のお葬式を出したりすると、早死にするとか、縁起が良くないなどと何の根拠もない無責任な迷信があるようです。しかし、実はとてもおめでたいことなのです。
お釈迦様はお経(地蔵本願経)のなかで、「生前に死後の仏事を修めておくと、その幸せは無量で計り知れない」と教えています。
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